油性塗料で塗装をするとき、シンナーは欠かせないもの。
必要なのには大事な理由があります。
実は、シンナーが塗装の品質に直結するからです。
しかしシンナーと言えば、取り扱いが難しかったり、健康に害がありそうなイメージがあったりと全般的に知られていないことが多いものです。
そこで今回は、シンナーの重要な役割から種類、正しい扱い方からよくある疑問まで、外壁塗装の塗料とシンナーの関係をまるっと解説します!
塗装の前に知っておくことで、適切なシンナーの扱いができ、品質の向上に繋ぐことができます。
シンナーの効果を発揮させるのに役立つ情報ですので、ぜひ最後までお読みください。
1章 塗料のシンナーの役割は品質の向上
シンナーは英語で「thinner」と表記し、thin=“薄める”という意味があります。
その意味の通り、塗料の原液を薄める目的で使用します。
シンナーは油性塗料に使う物なので、水性塗料には使用しません。
シンナーは油性塗料を薄める「有機溶剤」であり、品質の向上には欠かせないものです。
具体的な役割は大きく分けて2つあるので、それぞれ見ていきましょう。
1-1 塗料を塗りやすい状態にしてくれる
シンナーを使うことで、塗料が塗りやすい状態になります。
塗料の原液は粘度が高いため、そのままでは滑らかに刷毛やローラーで塗りつけることが難しいです。
それをシンナーで薄めることで、塗料の有機成分が溶解され、適切な粘度にし、塗りやすくしてくれます。
市販のDIY用塗料は、最初から適切な粘度に調整してあるものもありますが、使う温度や湿度によっては、最適な状態にならない場合もあります。
そんな時も、シンナーで薄めることで状態がカバーできます。
適切な粘度でないと、均一に塗れずムラになったり、塗料の伸びが悪くなって垂れやすくなったりしてしまうため、シンナーで塗料を塗りやすい状態にすることは重要な役割です。
1-2 表面をきれいにしてくれる
適切な粘度で塗料を使えば、表面の仕上がりがきれいになります。
粘度が高い状態だと、塗れたとしても刷毛やローラー跡が残り、仕上がりが格段に悪くなってしまうためです。
また温度や湿度の変化に対応して、シンナーの成分が蒸発量を抑制してくれるので、きれいな塗装の表面になります。
クレヨンでムラなく色を塗ろうとすると難しいですが、水彩絵の具なら、きれいに水で溶けば凹凸もなく比較的簡単にできますよね。
それと同じような原理で、塗料を適切な状態で塗ることで、表面の仕上がりをきれいにするのがシンナーの役割です。
2章 外壁塗装で使うシンナーの種類
外壁塗装で使用するシンナーにも、複数種類があります。
種類があるということは、使い分けが必要で、適切なシンナーを使用しないと不具合にも繋がりますので、種類と違いを事前に理解しておきましょう。
2-1 弱溶剤|塗料用シンナー
塗料用シンナーはホームセンターなどで購入できる「ペイントうすめ液」などが該当し、シンナー臭よりは、灯油に近い臭いがするのが特徴です。
油性の塗装であれば、ほとんどの住宅でこの塗料用シンナーが使われています。
弱溶剤というだけあって、乾燥時間や溶解力は少し弱めですが、その分扱いやすいです。
用途 | 住宅・家具・雑貨類向け |
扱いやすさ | ○ |
シンナー臭 | やや弱い |
効果 | ○ |
手に入りやすさ | ◎ |
2-2 強溶剤|ラッカーシンナー
強溶剤であるラッカーシンナーは、塗料用シンナーよりも強力なため、よりシンナー臭が強く、その分効力も強いです。
現在では、橋など耐久性が重視される物への塗装に使用されることが多いです。
揮発性(液体から気体になる性質)が高いのも特徴ですが、効果の強さからプロでないと扱いが難しいシンナーです。
用途 | 橋・大型建造物・工業用向け |
扱いやすさ | △ |
シンナー臭 | 強い |
効果 | ◎ |
手に入りやすさ | △ |
2-3 その他のシンナー
その他にも使用する塗料に合った、専用シンナーがあります。
ウレタン樹脂塗料にはウレタンシンナー、エポキシ樹脂塗料にはエポキシシンナー、と言った具合です。
専用シンナーについては塗料の製品仕様に記載があるため、事前に適したシンナーが何かを確認しておく必要があります。
適していないシンナーを使用すると、塗料が塗りにくくなったり、分離してしまったり、乾くとシワになったりと様々な悪影響が出るため、その他の専用シンナーの場合は特に注意が必要です。
3章 シンナーの正しい使用方法
シンナーは正しい使用方法を守ることで効果を発揮します。
使用方法を守ることは、品質と自身の安全を守ることに繋がりますので、扱いの際はぜひ正しい方法で実施しましょう。
3-1 シンナーを扱う時の服装
シンナーを扱うときは、有機成分をなるべく取り込まないための服装をしましょう。
シンナーは呼吸や皮膚からも吸収できるため、身軽すぎる服装だと、気付かぬ内に人体に影響が出ていることがあります。
そのため、服装もしっかりとした装備が必要です。
具体的には
・皮膚を出さない長袖・長いズボンを着用 ・手袋(ビニール製) ・防毒マスク |
が挙げられます。
長袖着用など、直接触れないための対策をします。
手袋は軍手のような布地だと、触れたときに染みて直接皮膚にあたってしまうので、ビニール製やポリエチレンタイプがおすすめです。
また気化したシンナーは多量を吸い込むと中毒症状がでるため、防毒マスクが有効です。
正しい服装で取り扱うことで、悪い影響を防げます。
3-2 量や種類はカタログの表記を守る
使用する量や種類は、カタログや製品仕様に記載してあるものを守りましょう。
既定の量や種類を守らないで使用すると、仕上がりの品質が落ちてしまうためです。
例)
菊水化学工業の『菊水SPパワーフッ素クリヤー』という塗料の施工仕様書を見てみましょう。
出典:菊水化学工業
塗料のカタログを見ると、使用すべきシンナーの種類が記載してあります。
この塗料では「塗料用シンナーA」という種類のシンナーを使用します。
出典:菊水化学工業
そのシンナーを使用する上で、希釈率が決まっています。
塗装をする手段(刷毛・ローラー・エアスプレーなど)によって希釈率が決まっているため、手段と希釈率を理解して、シンナーでうすめれば、品質の保たれた塗装ができます。
3-3 使い終わった道具はシンナーで洗う
使い終わった道具類は、シンナーで洗って塗料を落としましょう。
油性の塗料は水洗いなどでは落とせないため、シンナーで洗って片付けないと、道具が使えなくなってしまいます。
プロの職人は刷毛専用の保存箱で洗って保管をしています。
塗料をシンナーでちゃんと落として乾かす手入れをしないと、二度と使用できなくなってしまうため、手入れはしっかり最後まで行いましょう。
3-4 使用済みシンナーの処分方法
使用済みのシンナーの処分方法は、いくつか方法があります。
基本的には有害ごみのため、そのまま地域のごみ回収の日に出すのではなく、下記の手段のいずれかで処分しましょう。
地域のごみ回収に出してしまうと、シンナーがビニールや周りのごみを溶かしたり、発熱・発火に繋がったりという危険があるためです。
・販売店へ持ち込む ・産業廃棄物処理業者に依頼する ・市役所や、地域のゴミ処理センターへ相談する ・廃品不要回収業者に依頼する |
いずれも事前に電話で連絡した上で回収してもらえるか確認した方が安心です。
また廃棄は基本的に有料となることがほとんどです。
1缶で●●円、出張引き取りがある場合はプラスで金額が掛かることが多いため、電話の際は金額の確認もしておきましょう。
ただ、ごく少量なら普通ごみとして処分することもできます。
5章Q3をご覧ください。
4章 安全に使うための2つの注意点
シンナーと言えば、なんとなく「健康には悪い」イメージがある方も多いはず。
油性の塗装では欠かせない材料ですが、安全面では水性の塗装以上に気を付けるべき点があります。
事前に把握して被害が出ないように注意しましょう。
4-1 近くで直接臭いを嗅ぎすぎない
最近のシンナーは昔のものより有毒性が弱くなってきましたが、それでも近くで多量を吸い込むと、体調が悪くなることがあるため、臭いを嗅ぎすぎないよう注意しましょう。
臭いのキツさは感じ方に個人差があるので、一概に「これくらいの時間であれば吸ってもキツくない」とは言いにくいです。
ですが油断して直接臭いを嗅ぎ続けていると、軽度の症状としては頭痛・めまい・吐き気が多く見られ、重度の症状だと意識障害や呼吸困難などに繋がってしまい危険です。
そのため、防毒マスクをすることはもちろんですが、極力塗料に顔を近づけないようにしましょう。
4-2 保管は換気と火気に要注意
保管で注意したい点は、換気と火気です。
シンナーは気化しやすいため、換気の出来ない密閉空間で保存しておくと、気化したシンナーの成分が充満してしまいます。
これを吸い込むと身体に毒なのと、別の面ではそのシンナーの成分が充満した空間に万一火気があると、ガス爆発のように引火して火事になってしまいます。
また温度が上がるとシンナーが気化してしまい、気付かぬうちにシンナーの成分で空気が満たされてしまうこともあるので、気温が40℃以上に上がるような場所や、日当たりの良い場所を避けて保管しましょう。
残量が減ってきたシンナーは、密閉度が高まるように蓋付きの容器に移し替えるのも良いでしょう。
■塗料保存用の缶
5章 みんなのシンナー疑問Q&A5選
シンナーについて基礎知識を抑えたものの、更に自分の疑問を解決したいという方に向けて、特に多く聞かれる疑問をQ&A方式でお教えします。
Q1. 安く抑えたいから、安いシンナーを代用しても良い?
A.塗料の指定外のシンナーは施工不良の素です!
シンナーも金額がピンキリです。安く済ませたいのが理由で安価のシンナーで済まそうとすると施工不良を起こしてしまう可能性が高くなります。
施工不良には、剥げやすいことや、色むら、表面がボコボコする、白化(表面が白くなる)等があります。
塗料のカタログや仕様書に記載ある正しいシンナーを使用しないのはリスクが高い行為ですので、値段だけで考えずに、必ず仕様書に沿ったシンナーを使いましょう。
Q2. シンナーの臭いってきつい?害があるの?
A.直接長時間吸い続けることがなければ、大丈夫です。
シンナーを吸い込むと、有毒であるとイメージを持たれている方も多いと思います。
ですが、最近のシンナーは、直接至近距離で長時間吸い続けるようなことがなければ、身体に毒ということはありません。
ただし、体質的に臭いに敏感だったり、化学物質アレルギーだったりする場合は体調不良になる可能性があります。
マスクなどの服装を整えた上で、ご自身の体調を見ながら使用することが望ましいです。
Q3. 普通ごみで処分できるって聞いたけど本当?
A.ごく少量に限り、普通ごみとして処分可能です。
シンナーがティッシュや新聞紙に染み込ませてすぐ乾く量であれば、完全に乾いた状態で普通ごみとして廃棄可能です。
または“残塗料処理剤”というものを混ぜて、油分が抜けるまでよく乾燥させれば、これも普通ごみとして廃棄できます。
但し、よく乾燥していない内に廃棄してしまうと、前述のとおり周りのごみを溶かしたり、発火したりと危険性が高いため、自分で普通ごみとして処理できるのは、あくまでごく少量の時に限ります。
残った量に対して適切な量を加えて混ぜることで、おから状の固形にしてくれるので、十分に乾燥させれば可燃ごみで処分できます。
可燃ごみで処分できるかどうかは、各市区町村・自治体により異なるため、お住まいの地域で確認しましょう。
Q4. シンナーは汚れも落とせるの?
A.汚れも落とせます
シンナーは、例えばペンキが飛び跳ねて汚れてしまった、という場合にはその汚れを落とすことが可能です。
ペンキを溶解できるので、それによって汚れを落とします。
ここで重要なのは、落としたい汚れが着いてしまった「物」が何なのかに注意が必要ということです。
プラスチックのカップなどは、シンナーがプラスチック自体を溶かす力を持つため、素材を傷めてしまいます。
また車や外壁などは、ペンキを落とそうとしっかりこする内に、元の塗料まで溶かしてしまう可能性があるため、不要な布に染み込ませて、落としたい汚れだけに触れるように優しく試してみると良いでしょう。
Q5. 近所に影響はないの?
A.ご近隣への影響はほとんどありません
シンナーの臭いがきついと、近隣にも嫌な想いをさせて最悪トラブルになるんじゃ…とご心配な方もご安心ください。
ご近隣へはまず臭いが届かず、また健康にも害がありません。
塗装工事の際は家の周りに塗料の飛散などを防止する目的で“メッシュシート”を付けます。
これが防御壁のようになって、近隣への飛散や臭いの拡散を抑えてくれるため、よほど近付かない限りは臭いもありません。
臭いに過敏な方や、アレルギーをお持ちの方、妊娠中の方などには配慮して事前のご理解をいただくようにしたいですが、基本的には、近隣の工事のシンナーが原因でトラブルになるということは稀なので、ご安心ください。
▲家をぐるりと覆うメッシュシート。
細かい目のシートなので、汚れや臭いの拡散も抑えてくれます。
まとめ
いかがでしたか?
塗料のシンナーは、油性の塗装の品質が良くなる欠かせないものです。
仕上がりを良くするためにも理解が必要です。
外壁塗装では、
- ・弱溶剤|塗料用シンナー
- ・強溶剤|ラッカーシンナー
- ・その他のシンナー
と種類があります。
- 主に使用されるのは塗料用シンナーですが、塗料に合った正しいシンナーを使用しましょう。
また正しい使用方法を守ることが必須です。
- ・シンナーを扱う時の服装は皮膚が出ないようにする
- ・量や種類はカタログの表記を守ることで施工不良にならない
- ・使い終わった道具はシンナーで洗うとダメにならない
- ・使用済みシンナーの処分方法は正しく守ると事故にならない
というのは重要なので、使用の際は固く守りましょう。
また安全に使うための注意点として
- ・近くで直接臭いを嗅ぎすぎない
- ・保管は換気と火気に要注意
が挙げられます。
正しい取り扱いをすることで、塗装の質が向上し、ご自身の健康も守れるようにしましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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